2007ECR記 2 2007.3.9
(学会初日。プラター公園、意外なコンサート)
学会第一日目。ホテルからは乗換無しで学会会場へ行ける。蘭もお気に入りのホテルの朝食(特にチーズとハム、ソーセージ類が別格)を取ったあと、会場へ向かった。ホテルから駅までは数百メートル、すでにウィーンの朝は始動している。ゴミ回収車、駅前のサンプル配りのお姉さん、無料で配布される新聞 (Öestereich 紙など)。それらをくぐり抜けながら地下鉄に乗る。改札に人はなく、ただ日付を打刻する簡単な装置が取り付けられているだけである。切符を買う人はあまり見かけず、そのまま出入りしているようであった。何か定期券のようなものを買っているのかもしれないが。Schwedenplatz 駅からU1(赤色の路線)に乗って5駅の Kaisermühlen-Vienna int. centre. で会場だ。降りる駅ではおそらくは同業と思える人々が画一的にオーストリアセンターを目指して歩いていた。様々な言語、体臭、髪の色、服装等々。ここは既に非日常的な「国際」の現場だ。放射線医学の徒が全世界一同に会する熱い現場なのだ。その群衆へ参加しているという喜ばしくも緊張に満ちた、私にしては殊勝な心構えでいた。会場に着くと、入り口のあたりで多くの人々が煙草を吸っておりもうもうとしている。日本や米国ほどは喫煙への規制は強くないようだ。すくなくともここウィーンおいては。学会速報紙 "ECR TODAY 2007" が配布されている入り口をさらに入ると、左手に学会バッグ(プログラムなどの資料が多数)をくれるブースがある。今年のバッグは去年のよりは使い勝手がよい。去年のECRでは新しい試みとして学会ラジオ局開設とその視聴装置を配っていたけど、今年は取りやめたようだ。
各セッションごとに評価シートが配られ、それに予めもらっていたバーコード付きのIDシールを貼って終了時に提出する。これが参加した記録となり、後にオンラインで CME 証明書として利用できる。提出しないと記録に残らないので注意。本日は下の2セッションに参加。
RC101 Ambominal and Gastrointestinal Imaging malignant liver lesions
転移・非硬変肝における原発性肝悪性腫瘍・硬変肝における原発性肝悪性腫瘍の三つに分かれている Refresher course. どこかで聞いたような内容であまり印象に残らず。
SS205 Computer Applications CAD and automated image analysis
CT colonography の CAD が三題、肺結節の評価が二題、 卵巣癌における histosacn 、全身MRIでの脊椎転移検索の CAD, dual energy CT など。 CTC についてはエキスパートではCAD不要→専門性の主張? (通常 CF との勝負はやはりつらそうだが)、腸管前処置はより楽な tagging へという流れになるのかも。Histoscan の原理はいまひとつよくわからないが 3D US のデータを用いて超音波の背景散乱を解析、組織型の推定(癌か否か)を特殊なアルゴリズムで解析するもののようだ(histoscanning.comの資料より)。卵巣のみならず、乳癌や前立腺癌での臨床応用が可能らしい。生検に代わりうるものにはならないだろうが、ある程度正確に診断できるのならば診断・ステージングのプロセスに割り込む余地はありそう。
シーメンスのマシンによるDual energy CT では X線スペクトラムの解析により、同じ高濃度でも石灰化と造影剤による染まりの区別が可能になるとのこと。"Virtual pre-contrast" の発想が面白いが臨床応用の範囲は狭そうだ。Dual energy といえばかつて肺結節の解析に石灰化の検出による良悪性の鑑別で一度挫折している。
そうこうしているうちに、午前中のプログラムが終了。RSNAほどスケジュールがタイトではないので、ランチタイムはじっくりとれる。午後に聞く予定のセッションは4時からだ。その時間に、蘭と出かける予定で居た。待ち合わせは会場近くの駅だ。…予定時間を過ぎること30分、蘭がくる気配もない。退屈しのぎがてら外を撮影。すると、携帯が鳴って取ってみると 「どこにいるの」。明らかに声が怒っている。「IDチェックのところにいるんだけど」むむむ、駅から会場への一本道で待機していたのにいつの間にか通り過ぎたんだろうか?少し話を聞いてみるとどうやら学会会場とは別のところにたどり着いたようだ。
その後駅で落ち合い、プラター公園へ向かった。U1 で praterstern 下車。徒歩で10分、うららかな日差しの中並木林を行くとおそらく観覧車では世界でもっとも有名であろう、映画で見たあの構造物がそこにあった。観覧車を背景に、蘭と写真を撮る。
そう、これが有名なウィーン大観覧車なのだ(サイト)。チケット(8E)
を購入し、黒人受付員が半券を切って中へ。展示物の脇を通り過ぎると、白人の受付員が何かを聞いてきた。よくわからなかったので聞き直すと、どうやら記念撮影がいるかどうかということだった。いらない、とこたえるととっとと消えろといわんばかりの勢いで乗車口は向こうだ、といわれた。観覧車はゆっくり回っている。赤く箱型のゴンドラに乗り込む。人が乗り降りするたびに一時停止させており、回転速度は不均一だ。異国の空の下、蘭と私のためだけに少しの間用意された専用の空間。一個後ろの個室には大きなテーブルと椅子が並べられている。内装は各々異なるんだろうか。内側は板張りになっているが、多数の落書きがなされている。我々と同じように、かつて一時的にゴンドラの主だった人々が書いたものだ。周りに誰もいないのを確認し少しいちゃいちゃした。「やらしい声出して~」とからかうと、ぽかぽか叩かれて「もう何もしゃべらないよ」とむくれた。そんなところも可愛いのだが。上ってきたところで窓を開けて外を見ると、デザインの統一された建物の屋根屋根が整然と並んでいた。
蘭が、「第三の男」のあのメロディを口ずさむ。その横顔ははっとするほど美しく感じた。この時間が永久に続けばいいのに。
観覧車から降りて昼食を取る場所を探した。園内は他にジェットコースターなどもあるが全体的にうらびれた感じで、カフェテリアみたいなところは煙草の煙で充満していた。しょうがないから外へ出て店を探す。すぐそばの Praterstrasse にある "Gasthaus" という店があり、メニューを見ると手ごろだったためそこで食べることにした。人のよさそうなおじさんが切り盛りしている。周りに観光客らしいのはいない。白身魚のフライ、ポテトの添え物、スープなどで 22.7 EU。なんだか割高な感じがする。請求書を前にうなっているとまたおじさんがやってきて "without tip" というので 24E 払って外へ出る。そこでいったん別れて私は再び学会場へ戻った。
*注釈
プラター公園の観覧車は最も古いものの一つで(参照)、建設されたのは1897年である。地下水道とともに、オーストリア帝国の栄華を象徴する建造物であり、映画「第三の男」においても舞台となった。闇商人として小悪に手を染めるハリー・ライムは「古きよきオーストリアを象徴する人物であり、第二次大戦敗戦後の英米仏ソ四分割統治下にあってはむしろレジスタンス的な魅力を放っている」と論評する人もいる(参照)。戦後復興の中、30あるうちの15のゴンドラのみ交換すればよいぐらい保存状態はよかった。ちなみに、ウィーンは9Mも掘ると古代ローマの時代の層に到達しうる。後述するFreybung で駐車場建設のため掘り返したら12世紀の歩道が発掘されていたりもする。欧州都市の地下は連綿と続く歴史の中にあるのである。

午後からのセッションは
CC416 The staging of cancer staging nodal and distant metastasis
であった。骨、腹部、リンパ節転移についての概説。復習にはなった。
その後、Dr. Stephan Swensen (ロチェスター)による Inaugural lecture と、恒例の opening concert. 自らのルーツがドイツ系移民のようで、それに絡めたスピーチが行われた。主題としては欧州と米国との相互関係のようだった。今年の学会頭の Christian J. Herold 氏は教育に力を入れることを明言した。名誉会員の表彰では京都の富樫かおり先生が受賞していた。
コンサートは今年もクラシックのみかと思いきゃ Joe Zawinul、Sabine Kabongo によるソウルフルなジャズセッションが引き続いて行われた。ツインピアノから始まり、魂のこもったアフリカ出身 Sabine のボーカル、奇抜な楽器を用いたワールドジャズとでも表現すべき楽しげなセッションであった。*Joe Zawinful氏は2007.9.11逝去された。
その余韻を残しながら、ホテルへ戻る。少し休んでから、夜のウィーンへ散歩に出かけた。当然最低限の警戒は必要だが、治安はいいと思う。夜は特定のスポット以外は閑散としている。オカマバーらしい所もあって中に入ってみたがまだ開店前だった。
突然、立体的に交差する上の方の道路からビンの破片が落ちてきた。きらきらと街頭に照らされており、不穏当な例えだが 「水晶の夜」という言葉が思い浮かんだ。理不尽ドラマのような展開だが。その後 Freybung の方で Wienerwald というレストランに入り軽く食事をした。ビール、ミネラルウォーター、フライドチキンなどで 15E。夜のウィーン市街地は時間を閲した古い建物群が石畳の道路をどこまで行っても続いておりなんともいえない風情がある。ホテルへ戻り就寝。蘭は疲れたのか先に寝てしまった。私の腕に抱かれて眠る蘭。肌を通して感じる体温が暖かだった。こっそり寝顔を撮影。

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